仏教入門 おしえて千葉先生 対談 第6回

本願寺史研究の第一人者に聞く   世のなか安穏なれ」って?!

千葉乗隆 「イラスト提供」:竹林地 俊人さん 安芸教区機関誌「見真」2007/09号10号合併号
 「世のなか安穏な れ」って、お寺でよく見 かけます。安穏″って お気軽な雰囲気ですね?
 親鸞聖人750回 大遠忌法要のスローガン ですね。聖人がお弟子 の性信房に宛てたお手 紙にある言葉です。お 気軽な感じを受けたよ うですが、厳しいお言 葉ですよ。


 ??。詳しく教えて ください。
 お念仏の教え の間違った解釈は昔から ありました。多くは、「悪 いことをしても、念仏を すれば帳消しになる」と いう考えです。親鸞聖人 は晩年、関東から京都に 移られます。聖人ご不在 の関東にも、こうした異 端による混乱がありまし た。解決のためにご子息 の善鸞さまを派遣されま すが、かえつて深刻な事 態になります。


 なぜですか?
 善鸞さまが、 「念仏するだけでなく、 悪い行いを止めて良いこ とをしなければならない」 という別の異端を説くの です。


 僕には正しい意見 に聞こえますが?
 善鸞さまの考 えは、阿弥陀さまにお任 せしていくお念仏の教え とは異質な面がありまし た。念仏ではもの足りな い、良いことをして念仏 の助けにしようという考 えです。そして自分の正 当性を強調するあまり、 父・親鸞聖人は、私だけ に本当の教えをコッソリ 伝授したと言いだしま す。また正当な門弟でも 意見の合わない者は、罪 を恐れず悪行を重ねる者 だと鎌倉幕府に訴え出た のです。


 親鸞聖人にとって 思いもよらぬ展開ですね。
 はい。当時の関 東は混乱を極めました。 そこで命懸けで奔走し、 解決したのがお弟子の性 信房です。一人ですべて の責任を背負い、理不尽 な非難は家族にまで及ん だようです。この性信房 へのねぎらいのお手紙に 綴られたのが、「念仏を 心に入れて、世のなかが 安らかであるように。そ して、仏法がひろまるよ うに」との一節です。聖 人はこの一件で、涙なが らに善鸞さまとの親子の 縁を切られました。


親子の縁を切る。 厳しい〜。
 親鸞聖人は、 間違った教えを人々に説 くことを許せなかった。 親子の間でもご信心のこ とはキチッと処理なさっ たのです。


 「世のなか安穏なれ」 の言葉をどう思われます か?
 親鸞聖人のご家 族も、平凡な面もあって、 善鸞さまのような行動を する者もありました。だ から、家族の問題など聖 人も私たちと同じように ご苦労をされ、苦楽を歩 まれたご家族でした。正 しいおみ法を伝えるため 世間の非難に負けずに 尽力された性信房への 言葉は、そのまま親鸞 聖人ご自身への言葉だ と思います。ご子息へ の厳しさの裏側にある愛 情との間で、何ともし難 いジレンマを抱え、こ んな辛いことはあって はならない、そのため にも本当の仏法が広ま り、心安ら かな世界を 願わずにお れない心情 なのです。 明田:お気軽 どころか、最 後まで苦し み悩んだ、 心の叫びで すね。


  • お話し」 千葉 乗隆: 本願寺史料研究所所長 龍谷大学名誉教授

  • 聞き手」 明田 周士:安芸教区機関誌『見真』編集部